災害は季節を選ばずにやってきます。冬の寒さ対策も重要ですが、夏の災害で特に警戒しなければならないのが熱中症です。停電でエアコンが使えず、断水で十分な水分が確保できない状況は、命に関わる危険な環境といえます。災害時の暑さは、体力だけでなく気力も奪っていくものです。この記事では、夏の被災生活における熱中症のリスクと、電気がなくてもできる効果的な対策について解説します。

災害時の環境が熱中症リスクを高める理由

夏場に災害が発生した場合、私たちは普段の生活からは想像できないほど過酷な暑さと向き合うことになります。通常であればエアコンや扇風機を使って室温を調整できますが、地震や風水害によって停電が発生すれば、それらの電気機器は一切使えなくなります。窓を開けて風を通そうとしても、建物の倒壊や防犯上の理由、あるいは害虫の侵入を防ぐために窓を開けられない状況も十分に考えられます。このように、熱気が室内にこもり続けるサウナのような環境で長時間過ごすことが、熱中症の最大のリスク要因となります。

また、災害時はトイレの回数を減らしたいという心理が働き、無意識のうちに水分摂取を控えてしまう傾向があります。特に断水している場合は手持ちの飲料水が限られるため、どうしても水を飲むことをためらってしまいがちです。しかし、高温多湿の環境下で水分補給を怠ることは、脱水症状へ直結します。さらに、被災による精神的なストレスや睡眠不足も重なり、自律神経の乱れが生じることで、身体の体温調節機能が低下しやすくなる点も見逃せません。

屋外での片付け作業も大きなリスクを伴います。散乱した瓦礫の撤去や泥の掻き出し作業は多大な体力を消耗しますし、直射日光の下での作業は短時間であっても急激に体温を上昇させます。普段健康な人であっても、被災という非常事態においては体力や判断力が低下しているため、自分でも気づかないうちに重度の熱中症に陥ってしまうケースが少なくありません。災害時は「自分は大丈夫」という過信を捨て、平時以上に慎重な体調管理が求められるのです。

電気や水道が止まった状況での暑さ対策

電気が使えずエアコンに頼れない状況では、自然の力や物理的な工夫で体温を下げる必要があります。まず重要になるのが服装の調整です。吸湿性や速乾性に優れた素材の衣服を選び、締め付けの少ないゆったりとした服装を心がけることで、体内の熱を逃がしやすくします。汗をかいた衣服を長時間着続けていると、湿度が高まり不快感が増すだけでなく、皮膚トラブルの原因にもなるため、可能な範囲でこまめに着替えることも大切です。

身体を直接冷やすことも効果的です。もし手元に保冷剤や氷が残っていれば、それをタオルで巻き、首筋や脇の下、足の付け根といった太い血管が通っている場所を冷やします。氷がない場合は、水で濡らしたタオルを固く絞り、身体に当てるだけでも気化熱によって体温を下げる効果が期待できます。風が少しでもある場合は、濡れたタオルを首に巻いて風に当たることで、より涼しさを感じることができるでしょう。うちわや雑誌などで風を送ることも、汗を蒸発させて体温を下げるためには有効な手段です。

居住環境の工夫としては、直射日光を遮ることが最優先です。カーテンやブラインドを閉めることはもちろんですが、窓の外によしずやサンシェードを設置できる場合は、外側で日光を遮断するほうが室内の温度上昇を抑える効果が高くなります。避難所などで十分な資材がない場合でも、新聞紙や段ボールを窓に貼るだけで簡易的な断熱材となり、直射日光による室温の上昇を和らげることができます。また、二か所以上の窓やドアを開けて風の通り道を作ることで、室内に熱気がこもるのを防ぐ工夫も必要です。

水分補給に関しては、喉が渇く前に飲むことが鉄則です。一度に大量の水を飲むのではなく、少量を頻繁に摂取することで身体への負担を減らしながら吸収率を高めることができます。汗と一緒に塩分も失われるため、水だけでなく塩飴や梅干しなどを併せて摂取し、体内の電解質バランスを保つように意識しましょう。経口補水液を備蓄しておくと、素早い水分補給が可能となり非常に役立ちます。

高齢者や子どもを守るための周囲のサポート

災害時の熱中症対策において、特に注意を払わなければならないのが高齢者と子どもです。高齢者は加齢に伴い、暑さを感じる感覚や喉の渇きを感じる機能が低下していることが多くあります。本人が「暑くない」「喉は渇いていない」と言っていても、実際には身体が脱水状態に陥っていることは珍しくありません。また、身体の水分量自体も若い人に比べて少ないため、短時間で症状が悪化しやすい傾向にあります。周囲の人が定期的に声をかけ、時間を決めて強制的に水分を摂ってもらうようなサポートが必要です。室温計がある場合は、数値を確認しながら衣服の調整や室温管理を行うことが望ましいです。

乳幼児や小さな子どもは、体温調節機能が未発達であり、大人よりも気温の影響を強く受けます。特に身長が低い子どもは、地面からの照り返しの熱を大人以上に強く受けてしまいます。遊びや何かに夢中になっていると体調の変化に気づきにくく、突然ぐったりとしてしまうこともあるため、大人が顔色や汗のかき方を常に観察しておく必要があります。顔が赤い、機嫌が悪い、おしっこの回数が少ないといったサインは危険信号です。避難所などでは、子どもが涼しい場所で過ごせるように優先的にスペースを確保するなど、地域全体での配慮も求められます。

熱中症は、重症化すると意識障害を引き起こし、最悪の場合は死に至る恐ろしい症状ですが、適切な予防と早期の対応で防ぐことができます。災害という混乱した状況下では、自分のことだけで精一杯になりがちですが、家族や近隣の人同士で「水を飲みましたか」「少し休みましょう」と声を掛け合うことが、命を守るための最大の防御策となります。互いの顔色を見ながら、異変があればすぐに休息をとらせる、身体を冷やすといった対応をとれるよう、日頃から熱中症に対する正しい知識を持っておくことが大切です。