災害発生時において、正確な情報は水や食料と同じくらい重要なライフラインとなります。しかし、SNSが普及した現代においては、役に立つ情報だけでなく、人々の不安を煽るデマやフェイクニュースが瞬く間に拡散されるという問題も深刻化しています。「動物園から猛獣が逃げた」「数時間後に大地震が来る」といった根拠のない情報が、被災地の混乱に拍車をかけるケースが後を絶ちません。この記事では、なぜ災害時にデマが広まりやすいのかという心理的な背景と、嘘の情報に惑わされず冷静に行動するためのポイントについて解説します。

なぜ災害時にはデマや流言が拡散してしまうのか

災害が起きると、私たちは誰もが「もっと情報が欲しい」「これからどうなるのか知りたい」という強い不安に襲われます。このような心理状態のときは、通常であれば疑うような情報であっても、無防備に信じ込んでしまいやすくなります。特に、命に関わるような衝撃的な内容や、感情を強く揺さぶるような情報は、真偽を確かめることよりも「早くみんなに知らせなければ」という焦りが先に立ってしまいます。実は、災害時のデマの多くは悪意を持って作られたものばかりではなく、誰かの「役に立ちたい」「危険を知らせてあげたい」という善意によって拡散されてしまうケースが非常に多いのです。

この「善意の拡散」こそが、デマを止めることを難しくしている最大の要因です。SNSで「拡散希望」と書かれた投稿を見ると、親切心から友人やフォロワーに共有ボタンを押してしまう人が後を絶ちません。しかし、もしその情報が誤りだった場合、結果として救助活動の妨げになったり、不要な避難行動を誘発して誰かを危険に晒したりすることに繋がります。また、人は不安な状況下では、自分が信じたい情報や、自分の不安を裏付けてくれる情報を無意識に選んで信じてしまう傾向があります。これを確証バイアスと呼びますが、災害時にはこの心理作用が強く働き、ネガティブな噂話ほど真実味を帯びて広まっていくという悪循環が生じるのです。

怪しい情報を見分けるための着眼点

SNSやインターネット上で流れてきた情報が真実かどうかを見極めるためには、いくつかのチェックポイントがあります。まず最も重要なのは、その情報の「発信元」がどこかを確認することです。公的機関や信頼できる報道機関のアカウントからの発信であれば信用度は高いですが、「知り合いから聞いた」「自衛隊の知人が言っていた」といった伝聞形式の投稿は、出所が不明確であり注意が必要です。また、投稿に具体的な日時や場所が明記されているかも重要な判断基準となります。デマ情報の多くは、「現在」「今すぐ」といった曖昧な表現を使い、いつの時点の情報なのかが意図的にぼかされていることが少なくありません。

次に注意すべきなのが、添付されている画像や動画の信憑性です。過去の別の災害時の写真や、海外の映像を使い回して、あたかも現在の被災地の様子であるかのように見せかける手法がよく使われます。衝撃的な画像を見ると直感的に反応してしまいがちですが、一度冷静になってその画像の背景や天候、看板の文字などを観察すると、不自然な点に気づくことができるかもしれません。さらに、「拡散希望」「絶対にシェアしてください」といった強い言葉で行動を促す投稿も警戒が必要です。本当に緊急かつ重要な情報であれば、感情に訴えかけるような表現を使わずに、事実だけを淡々と伝えているはずです。過度に不安を煽る表現や、正義感を刺激するような書き方がされている場合は、一旦立ち止まって疑ってみる姿勢が求められます。

誤情報の連鎖を断ち切るために私たちができること

災害時にデマの拡散に加担しないために、私たちが守るべき行動原則があります。それは、真偽が不確かな情報は「拡散しない」「反応しない」ということです。もしSNSで見かけた情報に対して少しでも違和感を覚えたり、裏付けが取れなかったりする場合は、どんなに有益そうに見える内容であっても、自分のところで情報の流れを止める勇気を持つことが大切です。情報をシェアする前に、自治体の公式ホームページや気象庁のサイト、大手ニュースメディアを確認し、同じ情報が発表されているかを調べる習慣をつけましょう。もし公式な発表が見当たらないのであれば、それはデマである可能性が高いか、あるいはまだ不確定な情報であるということです。

また、情報の「空白時間」に耐える冷静さも必要です。災害直後は状況が刻一刻と変化しており、正しい情報が出揃うまでにはどうしても時間がかかります。その空白の時間を埋めるように飛び交う憶測や噂に飛びつくのではなく、確実な情報が出るのを待つという姿勢が、自分自身の心の安定にも繋がります。家族や友人と連絡を取り合う際にも、不確かな情報を安易に伝えないように注意しましょう。「らしいよ」「みたいだよ」という言葉を添えたとしても、受け取った側がそれを事実として受け取ってしまう可能性があります。情報は大切な人を守るための武器にもなりますが、扱い方を間違えれば凶器にもなり得ます。一人ひとりが情報のゲートキーパーとしての自覚を持ち、冷静に見極めることが、災害時の社会全体の混乱を防ぐことに繋がるのです。