災害時はキャッシュレスが使えない?現金の備えと小銭の重要性
普段の買い物はスマートフォン一つで済ませるというキャッシュレス派の方が増えています。財布を持ち歩かない生活は便利でスマートですが、災害時においてその便利さが仇となる可能性があることをご存知でしょうか。大規模な停電や通信障害が発生した瞬間、私たちの手元にある電子マネーやクレジットカードは一時的に利用できなくなるリスクがあります。この記事では、災害時になぜ現金が必要になるのかという理由と、具体的にどのような形でお金を備えておくべきかについて解説します。
デジタル社会の弱点となる停電と通信障害
現代の決済システムのほとんどは、電力と通信回線に依存しています。クレジットカード決済端末や、スマートフォンのQRコード決済、交通系ICカードの読み取り機は、すべて電気がなければ動きません。災害によって広範囲で停電が発生すると、スーパーやコンビニのレジスターも動かなくなるため、店側は手計算での対応を余儀なくされます。たとえ店自体に自家発電装置があったとしても、決済データを照合するための通信回線が遮断されていれば、キャッシュレス決済は利用できないのです。つまり、普段どれだけ電子マネーに残高が入っていたとしても、それを使う手段が失われてしまう可能性があるということです。
また、現金を下ろそうとしても銀行のATMが停止しているケースも考えられます。銀行のシステム自体は堅牢に守られていても、街中のコンビニATMや銀行の支店が停電していれば、物理的にお金を引き出すことはできません。さらに、停電が解消した後でも、ATMには現金を求める人が殺到し、すぐに紙幣切れになってしまうことも過去の災害では頻繁に起きています。スマートフォン自体のバッテリーが切れてしまえば、当然ながらアプリを起動することさえできません。このように、災害直後の混乱期においては、デジタル上の資産は一時的にアクセス不能な状態になりやすく、アナログな現金こそが、確実に食料や物資を手に入れるための最強の決済手段となるのです。
なぜ一万円札ではなく「小銭と千円札」が必要なのか
現金を非常用持ち出し袋に入れておく際、多くの方が一万円札を数枚財布に入れて安心しがちです。しかし、被災地での買い物において、高額紙幣は使いにくいという現実があります。停電したコンビニやスーパーでは、電卓を使って手動で会計を行うことになりますが、レジが開かないため、店員はお釣りを渡すことが難しくなります。もし全員が一万円札で支払おうとすれば、店側のお釣りの準備金はあっという間に底をついてしまうでしょう。その結果、「お釣りはいりません」と言って損をするか、あるいはお釣りがないという理由で商品を売ってもらえない事態になりかねません。そのため、災害用のお金としては、使い勝手の良い千円札と小銭を多めに用意しておくことが極めて重要になります。
特に硬貨、いわゆる小銭の役割を見過ごしてはいけません。災害時にスマートフォンが繋がりにくくなった際、唯一の通信手段として頼りになるのが公衆電話です。災害時には通信規制がかかりにくい公衆電話ですが、停電時にはテレホンカードが使えない機種もあり、硬貨しか受け付けない場合があります。安否確認のために家族へ連絡を取ろうとしたとき、十円玉や百円玉がなければ電話をかけることすらできないのです。また、停電対応型の自動販売機から飲み物を買う際にも小銭が必要になります。このように、非常時には「大きなお金」よりも「細かいお金」の方が、実際の生存や安全確保に直結する場面が多く存在することを理解しておく必要があります。
具体的な備蓄額の目安と保管のポイント
では、具体的にどのくらいの金額を備えておけば良いのでしょうか。家族構成や生活水準にもよりますが、発災直後の数日間を乗り切るための最低限の金額として、数万円程度を目安にすると良いでしょう。その内訳としては、公衆電話用に十円玉と百円玉を数百円分、自動販売機や少額の買い物用に百円玉と五百円玉を数千円分、そして残りを千円札で用意するのが理想的です。これらを普段使いの財布とは別に、非常用持ち出し袋の中に常備しておきます。重たくならない程度に、コインケースやチャック付きのビニール袋に小分けにして入れておくと、いざという時に素早く取り出すことができます。
保管する際には、防犯面への配慮も欠かせません。避難所での生活は、不特定多数の人が出入りする環境であり、残念ながら盗難のリスクもゼロではありません。そのため、全額を一つの袋にまとめておくのではなく、あえて二、三か所に分散させて保管することをおすすめします。例えば、メインのリュックサックの奥底に入れる分と、常に身に着けるサコッシュやポーチに入れる分、そして家族それぞれの荷物に少しずつ分けて持たせる分といった具合です。また、現金が入っていることが外から分からないように、中身の見えない袋に入れたり、衣類のポケットの中に忍ばせたりする工夫も有効です。
キャッシュレス決済は平時の生活を豊かにしてくれますが、災害という有事においては、昔ながらの現金が命綱となります。いざという時に「スマホが使えないから何も買えない」「お釣りがないから水が買えない」と途方に暮れることがないよう、日頃から小銭と千円札を意識的にストックし、アナログな備えを万全にしておくことが、自分と家族を守ることに繋がります。